ここ最近は、テレビ番組などで積極的に保護犬のことが取り上げられています。これまでは「犬を飼う=ペットショップで子犬を買う」ことが当たり前だった人にとっても、保護犬をお迎えするという選択肢がかなり周知されるようになりました。
この記事では、保護犬にならざるをえなかった犬達の厳しい実情や、保護犬の迎え方などを解説しています。保護犬と本当の意味での信頼関係を築くためにも、保護犬を迎えることのメリットとデメリットの両方にきちんと目を向けてください。
保護犬とは何らかの理由で保護された犬のこと
保護犬とは、なんらかの事情で保健所や犬猫の保護団体に保護された犬の呼称です。保護犬に共通しているのは、今現在家族の一員として大切にしてくれる飼い主がいないこと、といえるでしょう。
そんな保護犬が保護されるに至った背景には、次のようなものがあります。
①飼い主がなんらかの事情で飼えなくなった
飼い主自身が保健所や動物保護団体に犬の引き取りを依頼することもありますが、飼い主の親族等が犬の行先に困って持ち込むケースも少なくありません。
飼い主が病気や怪我で犬の世話ができなくなる、あるいは亡くなってしまったことによって飼育を継続できなくなり、さらには次の飼い主が見つからなかった。
飼い主の経済的な事情または環境の変化(結婚、出産、離婚、海外赴任など)によって、飼育を継続できなくなった。
②虐待や飼育放棄の現場から通報によって助け出された
警察・自治体・動物保護団体などに、犬の飼育放棄や虐待の通報がされたことによって保護されたケースです。ただし、飼い主が所有権を放棄しない場合は保護が成立するまでに時間がかかるため、一筋縄ではいかないケースも少なくありません。
まともに世話をされている形跡がなく、不衛生な環境に置かれていた。
飼い主から日常的に殴る蹴るなどの暴力を受けていた。
③多頭飼育崩壊からのレスキュー
多頭飼育崩壊とは、飼い主が犬に避妊・去勢を行わないまま無秩序に飼い続けた結果どんどん数が増えてしまい、適正に飼育することが困難になった状況のことです。
虐待や飼育放棄と同様に、多くは近隣住民からの通報によって酷い飼育環境が発覚します。最初は犬を可愛がっていたのかもしれませんが、多頭飼育崩壊となった現場は地獄と表現したくなるほどの惨状です。
④引退した繁殖犬
繁殖目的でブリーダーに飼われていた犬が、引退後の行き先を探す手段として、保護犬という形式に頼ることがあります。
メスの引退年齢はおおむね6歳前後。ただし帝王切開での出産が多い場合は、もっと早く引退することもある。
オスはメスより若干長く、8歳前後で引退するケースが多い。
⑤ペットショップで販売できない瑕疵がある
販売用の子犬に障害・遺伝的疾患など重大な瑕疵(欠点)がある場合も、保護犬として飼い主を探すことがあります。
メスの場合は成長後に子犬が産める状態と判断されれば繁殖元に残されることもありますが、オスの場合は早々に保護犬として飼い主を探すことがほとんどです。
繁殖元から商品にならないと判断された子犬。
一度は販売用の子犬として人手に渡ったあと、何らかの瑕疵が判明した結果、売り物にならないと判断された子犬。または売れ残って成長し過ぎた若い犬。
⑥飼い主が判明しなかった迷い犬
迷い犬として保健所に保護された後、飼い主が判明しないまま処分までの一定期間が過ぎ、時間切れになる前に保護団体が引き取りをしたことで保護犬となるケースです。
⑦野犬
人に飼われていた形跡のない野犬を市街地や山中などで保護した後に、保護犬として飼い主を探すケースもあります。
保護犬に多くみられる特徴とは?
基本的にペットショップで販売されている子犬とは違い、保護犬には保護されるに至った経緯によって、いろいろな特徴があります。
多頭飼育崩壊や野犬には雑種が多い
多頭飼育崩壊や野犬は、繁殖の組み合わせがランダムになります。そのため、生まれてきた犬のほとんどが雑種です。
また、野犬の場合小型サイズでは生き残るのが難しいことから、中型犬サイズが多いという特徴があります。
成犬や老犬が多い
子犬を扱うペットショップとは違い、保護犬の多くは成犬や老犬など、ある程度の年齢に達している犬がほとんどです。
もちろんタイミング的に子犬が生まれている場合は子犬の飼い主を探すこともありますが、その数は行き先を探している成犬や老犬に比べると、決して多くありません。
年齢や病歴がわからない
引退した繁殖犬、あるいは身元のはっきりしている飼い犬がなんらかの原因で保護されたケースを除き、はっきりとした年齢がわからないことがほとんどです。特に野犬や多頭飼育崩壊で保護された犬の場合、子犬以外は年齢を身体の特徴から推測するしかありません。
また、まともな健康管理がされていないことから、ほとんどのケースにおいて病歴など体の状態も不明です。
人慣れしていない犬が多い
普通に飼育されていた犬がなんらかの事情で保護犬となったケースを除き、保護犬の多くは人とまともに触れ合った経験を持たないまま数年を過ごしています。そのため、人間に対して過度に怯える犬も多く、人間は怖くないと理解するまでに時間がかかることも。
また、引退した繁殖犬も家庭犬のように扱われていることは稀なため、人間を怖がらなかったとしても、人とどう接すればよいのかを学習していない犬がほとんどです。
特定のものを怖がる
虐待された経験のある犬は、人間の手や足などを怖がることがあります。また、男性もしくは女性のどちらかとしか接したことのない犬は、接したことのない性別の人間を怖がらなくなるまでにかなり時間がかかることも珍しくありません。
保護犬を家族に迎えるには?
保護犬を家族に迎えるルートは、主に次の3つです。
保健所または自治体の動物愛護センターに申し込む
民間の動物保護団体の主催する譲渡会に参加する
里親募集サイトに登録し、申し込みをする
上記はいずれも「保護犬を迎えたいです」と申し込んだからといって、即了承されるわけではありません。譲渡条件の確認、犬とのマッチング、必要な飼育講習会などを経た後に、譲渡の可否が決定されることになります。
保護犬たちは飼い主との別れや過酷な飼育環境下におかれるなど、たくさんの辛い経験をしてきました。そのため、譲渡先は保護犬を家族として受け入れてくれる終の棲家でなければなりません。だからこそ、保護犬の譲渡は慎重に行われているのです。
保護犬のメリットとデメリット
保護犬は可哀そうだから――。そんな理由だけでお迎えしてしまうと、理想と現実の差に衝撃を受けることがあります。
保護犬たちがこれからは穏やかに暮らせる終の棲家を見つけられるよう、保護犬のメリットとデメリットをきちんと理解したうえで、保護犬の譲渡を希望することが大切です。
保護犬のメリット
成犬以降の犬を引き取ることで、子犬期のバタバタをスキップできる。
性質や性格を見極めやすい。
成犬以降の犬を引き取る場合、サイズが確定している。
避妊・去勢を済ませた犬を飼い始めることができる。
子犬を購入するのに比べて費用を抑えることができる。
行き場のない犬を引き取ることで、社会貢献の一翼を担える
保護犬のデメリット
歯周病・心臓疾患・腎臓疾患など加齢による病気の可能性がある。
人間と触れ合った経験がない犬の場合、新たな飼い主との距離が近づくまでにかなりの時間を要することがある。
なんらかのトラウマを抱えている場合、予想もしなかったタイミングで攻撃的になることがある。
引き取った犬の年齢によっては、一緒に過ごせる時間にかなり限りがあることが予想される。
保護犬のメリットとデメリットを理解したうえで、それでも保護犬をお迎えするという選択をしたら――。
その行為は、殺処分になるかもしれなかった犬を救っただけではなく、1匹分空いた保護犬の枠に入った別の犬の命も救ったことになります。犬との出会いは一期一会だからこそ、いろいろな選択肢を検討したいものですよね。