犬のフィラリア症は蚊が媒介する感染症です。これは犬を飼っている人なら誰もが知っていることですが、詳細についてはあいまいな飼い主さんもいらっしゃることでしょう。
フィラリア症は恐ろしい感染症ですが、きちんと対策すれば防ぐことができます。ただし、そのためには予防のメカニズムをきちんと理解しておかなければなりません。
この記事では蚊とフィラリア症の関係や、どうすれば完璧にフィラリア症を防げるのかを詳しく解説しています。
Contents
フィラリアは蚊と犬の間を行ったり来たりして感染が拡大していく
フィラリア症は、次のような経路をたどりながら感染を拡大させていきます。
1. 体内にフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)がいる犬を蚊が吸血し、蚊の体内にミクロフィラリアが取り込まれる。
2. 蚊の体内に取り込まれたミクロフィラリアが二度脱皮をし、感染力のある感染幼虫に成長する。
3. 感染幼虫を体内に持つ蚊が、別の犬を吸血することでその犬が感染幼虫に感染する。
4. 犬の体内で感染幼虫が成虫へと成長する。
5. 犬の体内でフィラリア成虫のオスとメスが揃うと交尾をし、ミクロフィラリアが誕生する。
フィラリアは1~5までのライフサイクルを繰り返しながら、感染を広げていきます。ミクロフィラリアのいない蚊に刺されても犬がフィラリアに感染することはありません。
しかし、ミクロフィラリアを持つ蚊に刺されて1匹でも犬がフィラリアに感染してしまうと、話は変わります。
その周辺にいる犬すべてに、感染が広がる可能性がでてきてしまうのです。
この感染拡大は、多頭飼育をしている一件の家の中だけにとどまりません。隣近所、それどころか同じ町内まで危険区域に入る可能性があるのです。
蚊は想像している以上に移動する生き物
日本では今のところ、16種類の蚊がフィラリアを媒介すると判明しています。そのうちヒトスジシマカの移動距離は約70m、ネッタイイエカに至っては、なんと1000m近くも移動する可能性が指摘されているのです。
これだけの距離が移動できるとなれば、隣町で発生した犬のフィラリア症も他人事ではありません。だからこそ、フィラリアの予防は特定の地域だけではなく、日本全国すべての犬に実施すべきなのです。
犬のフィラリア症が駆虫薬によって予防できるメカニズム
愛犬が蚊に刺されさえしなければ、フィラリア症に感染することはありません。しかし、現実問題として絶対に蚊に刺されない環境で生涯を過ごすことは、日本の気候ではほぼ不可能といえるでしょう。
となると、犬のフィラリア症を防ぐ最も効果的な方法は、予防薬を使うことです。
犬のフィラリア症の予防薬は本当は駆虫薬
フィラリアの予防薬は便宜上「予防薬」と呼んでいますが、本当は体内に入り込んでしまった幼虫を殺す「駆虫薬」です。
ではなぜ「駆虫」を「予防」と表現しているのでしょうか。その理由は、フィラリア症を本当の意味で予防できる薬はないからです。
フィラリアの予防薬は犬糸状虫のライフサイクルを利用している
駆虫薬で予防できる――。そのメカニズムには、フィラリア症の原因である犬糸状虫のライフサイクルが関係しています。
犬糸状虫が幼虫から成虫になるまで
第1期幼虫/ミクロフィラリア(蚊の体内)→1回目の脱皮→
第2期幼虫(蚊の体内)→2回目の脱皮→
第3期幼虫/感染幼虫(蚊の体内から犬の体内へ移動)→3回目の脱皮→
第4期幼虫(犬の体内)→4回目の脱皮→
第5期幼虫(この段階で犬の心臓や肺動脈に入り込んで成虫へと成長)
ミクロフィラリアは蚊の体内では成長できない
心臓や肺動脈に住みついた成虫から、ミクロフィラリア(第1期幼虫)が生まれます。ところがミクロフィラリアは犬の体内では成長することができません。成虫になるには犬の体内から蚊の体内へと移動する必要があるのです。
犬の体内に入った幼虫は次の段階へ
犬から蚊へ宿主を移すには、犬が新たな蚊に吸血されなければなりません。運よく(?)蚊の体内に取り込まれたミクロフィラリアは、二度の脱皮を経て感染力のある幼虫へと成長し、今度は蚊の体内から犬の体内を目指します。
フィラリア予防薬は第5期に成長する前に幼虫を駆逐する薬
犬の体内に入り込んだ第3期感染幼虫が最初に寄生するのは犬の皮下組織です。ここから第4期、第5期と成長しながら、ゴール地点の心臓や肺動脈を目指していくことになります。
フィラリアの予防薬が効果を発揮するのは、第3期から第4期に成長するまでです。第5期幼虫に成長してしまうと血流に乗って心臓や肺動脈を目指してしまうため、その前に一気に叩かなければなりません。
1ヶ月ごとの投薬がフィラリア予防の理想的なサイクル
そんな悠長なことで大丈夫?と不安になるかもしれませんが、皮下組織にいる段階の第3期幼虫には薬の効果が期待できません。
第3期幼虫が第5期幼虫になるには1ヶ月強から2ヶ月近くかかるため、1ヶ月に1回予防薬を使う投薬サイクルであれば、しっかり予防ができるのです。
2ヶ月以上投薬しないと感染の危険性あり
せっかくフィラリア予防薬を投薬しているのに、2ヶ月以上忘れてしまうと感染の危険性が高まります。フィラリア予防薬は投薬開始から投薬終了まで、忘れずに飲ませることで効果を最大限に発揮できるのです。
フィラリア症を完璧に予防する投薬開始から投薬終了までの考え方
フィラリアの予防薬は、蚊が飛び始めた1ヶ月後から投薬を開始し、蚊が飛ばなくなってからプラス1ヶ月後に投薬を終了するのが基本のサイクルです。
蚊が飛び始めたらすぐに投薬したほうがよいと思われがちですが、この時期に犬の体内に入ったミクロフィラリアには薬がほとんど効きません。だからこその1ヶ月後というわけですね。
そして、蚊が飛ばなくなってからプラス1ヶ月後まで投薬が必要なのは、蚊の飛び終わる時期ギリギリに体内に入ったミクロフィラリアを駆虫するためです。
このサイクルをきちんと守って投薬を続けていれば、犬がフィラリア症に感染することはありません。
重要!
蚊がいつからいつまで飛んでいるのかは、地域によって違います。必ずお住まいの地域の蚊の状況を確認し、もれのないように投薬を続けましょう。
フィラリア予防のためにできるお部屋の中と散歩中の対策
フィラリアの予防薬を正しく使っていれば、犬のフィラリア症を防ぐことは可能です。
とはいえ、そもそも蚊に刺される頻度が少なければ少ないほど、ミクロフィラリアが体内に入り込む確率を減らすことができます。
愛犬が蚊にさされにくいように、お家の中も散歩中もしっかり対策してあげましょう。
● 蚊取り線香や蚊取りマットを使用する
● 玄関やベランダに吊り下げタイプの蚊よけを取り付ける
● 蚊よけ効果のあるスプレーを天井・壁・網戸に吹きつける
● 散歩のときは首輪にペット用の蚊よけグッズを取り付ける、または虫除けスプレーを被毛や洋服に噴霧しておく
愛犬がいる室内で蚊取り線香や蚊取りマットを使うことに不安を覚える飼い主さんもいらっしゃることでしょう。
蚊取りグッズに使われている代表的な成分のピレスロイドは、犬や人間など哺乳類にとって安全性の高い成分です。
ただし、犬の体質によってはなんらかの不調が出る可能性がありますので、蚊よけグッズを使う際は愛犬の体調や行動に注意したほうがよいでしょう。
犬のフィラリア症は治療より予防が大切
フィラリア症に感染したとしても、治療ができないわけではありません。しかし、治療してもなんらかの後遺症が残る可能性は高く、結局のところしっかり予防して感染させないことが一番です。
1ヶ月ごとに投薬するフィラリア予防薬は、つい忘れてしまいがち。しかし、愛犬にいつまでも元気でいてもらうには必要不可欠です。