避妊手術をしていないメス犬を家族に迎えるなら、ヒート(生理)について詳しく知っておく必要があります。

とくに初めてメス犬を迎える方や、将来的に避妊手術の予定をしていない飼い主さんは、正しいヒートの基礎知識としっかりした心構えが必要です。

このコラムでは犬のヒート(生理)のメカニズムや、ヒート中の症状、ヒート時に注意することなどについて詳しく解説しています。

オス犬の飼い主さんも犬のヒート(生理)について知ることで、無用なトラブルを避けることができますよ!

犬のヒート(生理)は発情期

犬のヒートは私たち人間が考える「生理」のことではありません。便宜上「生理」と表現していますが、実際は「発情期」のことを生理と呼んでいます。

そのため、犬の生理は「発情出血」とも呼ばれ、その名の通りオスの受け入れができる状態になったことを示す現象です。

人間の生理と犬のヒートの違い

出血を伴うことから同じように見える人間の生理と犬のヒートですが、メカニズムには大きな違いがあります。

人間は妊娠が成立しないと生理になりますが、犬は妊娠可能な準備が整ったサインとして生理(に似た状態)になるのです。

人間の生理のメカニズム

人間の女性に起こる生理は、一般的に28~30日程度のサイクルです。およそ1ヶ月に1回の頻度のため、月経と呼ばれています。

人間の妊娠の準備は「卵胞ホルモンの分泌で子宮内膜が厚くなる」→「子宮内膜に厚みがでると黄体ホルモンが分泌される」→「排卵」という流れをとります。

そして妊娠が成立しないと「黄体ホルモンが減少する」→「厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちる」といった過程を経ていくのです。

排卵からだいたい14日後あたりで必要なくなった子宮内膜が排出され、この状態を「生理」と呼んでいます。

犬のヒート(生理)のメカニズム

犬のヒートとは「発情前期」と「発情期」のことをさしています。妊娠に向けて子宮内膜が厚くなるのは人間と同じですが、人間の生理のように妊娠の不成立によって子宮内膜が剥がれ落ちて出血するわけではありません。

犬の発情出血は、妊娠に備えて子宮が充血することによって起こるものです。

犬の発情周期と仕組み

犬の発情と発情の間隔(発情周期)は、およそ6ヶ月から12ヶ月です。そのため、ヒートは年に1~2回程度が一般的といえるでしょう。

犬の発情周期は「発情前期」「発情期」「発情休止期」「無発情期」の4つに分かれています。

発情前期

オス犬の交尾を受け入れるようになる手前までが発情前期です。この期間に個体差はありますが、おおむね5~10日間程度続きます。

外陰部が充血して膨らみ、子宮内膜からの出血で陰部から粘り気のある発情出血がみられる時期です。

膣分泌液に含まれる性ホルモンの影響でオス犬を発情させてしまいますが、まだオス犬を受け入れる時期ではありません。

発情期

オス犬の交尾を受け入れる時期を発情期といいます。この期間がどの程度続くのかは個体差が大きく、およそ5~20日程度です。

発情期に入ってからおよそ3日目あたりに排卵があり、発情出血の色は濃い赤からピンク色へと薄くなります。同時に粘性の強い液は水様性へと変わり、出血量も減少していくでしょう。

外陰部の膨らみも発情期の5日目前後にはおさまり始め、出血もみられなくなっていきます。しかし、まだ発情期である可能性は否定できません。

発情休止期

発情出血が完全に止まり、オスを受け入れなくなると発情期が終了します。ここから約2ヶ月間が発情休止期です。

この時期は妊娠が成立していなくても、卵巣で黄体ホルモンが形成される影響から乳腺が発達して乳汁の分泌がみられます。

この状態は「生理的偽妊娠」であり、妊娠成立と間違われることがあるのはそのためです。

無発情期

発情休止期の終わりから次の発情前期までの4~8ヶ月を無発情期といいます。この時期の卵巣は休止しており、妊娠に関連する卵胞や黄体は存在していません。

しかし発情前期のおよそ45日前あたりから陰部の大きさに変化がみられるようになり、卵胞の発育が始まると考えられています。

犬のヒート(生理)中にみられる行動

メス犬がヒート(生理)と呼ばれる発情を迎えると、行動には特有の変化がみられるようになります。

● そわそわして落ち着かない
妙にそわそわしたり、散歩にいくのを嫌がったりすることがあります。

● マウンティング
他の犬や物などに陰部をこすりつける、マウンティングと呼ばれる行動がみられるようになります。マウンティングはオス犬を受け入れる時期に入ったサインです。

● 食欲の低下
いつもに比べて元気がない、あるいは食欲が低下することがあります。

● 頻尿
何度もオシッコをしたり、外陰部を気にして舐めたりするといった行動がみられるようになります。

いずれもヒートによる影響のため、過度に心配する必要はありません。

ただし、何も食べようとしない、あるいはぐったりしているといった症状がみられたときは、動物病院を受診したほうがよいでしょう。

その場合は来院するオス犬に発情の影響を与えないよう、あらかじめ動物病院に電話連絡して指示をあおいでから受診することをおすすめします。

愛犬のヒート(生理)中に注意すること

ヒートを迎えたメス犬は、去勢していないオス犬を否が応でも惹きつけてしまいます。そのため、無用なトラブルを避けるためにも、散歩に外に連れ出す時間帯には充分に気を付けましょう。

もちろん、ヒート中の犬をドッグランやドッグカフェといった公共の場所に連れ出すのはマナー違反です。マナーパンツをはかせたぐらいでは、オス犬の嗅覚を誤魔化すことはできません。

また、ヒート中のメス犬は精神的に少し不安定な状態です。オス犬を受け入れない時期に発情の影響を受けたオス犬につきまとわれてしまうと、イライラしてケンカに発展することがあります。

しかし、オス犬を受け入れる時期には交尾をするかもしれません。興奮したオス犬が家に入り込んだ結果、飼い主さんが意図しない妊娠をすることもあります。

愛犬がヒートを迎えたときは発情休止期に入ったと思っても、念には念を入れて他の犬とは接触させないようにしたほうがよいでしょう。

ヒートの際にどの程度の出血がみられるかは、かなりの個体差があるため一概にはいえません。

「血なんてでた?」という程度の少量のこともあれば、部屋中血だらけになってギョッとすることもあります。

犬の多くは自分で陰部をなめてきれいにしますが、出血が多い場合はなんらかの対策をしたほうがよいでしょう。

マナーパンツをはかせる

散歩に連れ出すような短時間であれば、マナーパンツをはかせるのは良い方法です。

マナーパンツをはかせているとヒートを迎えていることが視覚的にわかりやすいため、オス犬の飼い主さんが近寄るのを避けてくれることもあります。

ただし、マナーパンツをはかせっぱなしにしてしまうと、かぶれなどの原因になることも。マナーパンツの使用はできるだけ短時間にとどめておきましょう。

掃除がしやすい床材に変える

よほど出血量が少量でない限り、どんなに気を付けていても部屋のあちこちに血が付着してしまうものです。

汚いものではありませんが、独特の生臭さや見た目のインパクトは、あまり気持ちの良いものではありません。

メス犬を迎えるにあたり、将来的に避妊をしない予定でいるのであれば、部屋の床材を掃除しやすいものに変えることをおすすめします。

犬用のフローリング材は滑りにくい加工がされているだけではなく、汚れが染み込みにくく血液が付着しても簡単に拭き取ることが可能です。

また、洗えるタイプのフローリングタイルを部屋に敷き詰めておけば、血液が付着した部分だけを洗濯できて便利ですよ。

ヒート(生理)についての正しい知識を持つことが大切

犬の生理は年に1~2度のことだから、と安易に考えるのは禁物です。人間の生理とは違い犬のヒートは始まりから終わりまでが長いため、考えている以上にさまざまな行動が制限されることになるでしょう。

メス犬のヒートはホルモンの影響を強く受けるため、ヒートを迎えるたびに乳腺腫瘍や卵巣腫瘍のリスクが高まります。

メス犬を迎える飼い主さんは、ヒートについての正しい知識を持ち、そのうえで避妊手術も含めた将来的なことをしっかりと考えることが大切です。