犬にとって最高に幸せな時間――それは飼い主が自分のことだけを見ながら、やさしくなでてくれるひとときです。となると、マッサージは犬と人の絆を深める最適な時間ではないでしょうか。

犬のマッサージは専門的な知識がないと難しそうに見えますが、そんなことはありません。ちょっとしたコツさえわかっていれば、誰でも簡単にトライできます。

このコラムではマッサージの効果をはじめ、自宅でも簡単にできるマッサージ方法についてご紹介していきます。

犬をマッサージすることで得られる身体面と精神面の効果

マッサージとは、主に手を使って身体のいろいろな部分を「さする」「もむ」「押す」などし、皮膚や筋肉に適度な刺激を与えて血行や新陳代謝を良くすることです。

私たち人間にとっては一般的な健康法の一つですが、犬の身体をマッサージすることにも同様の効果が期待できるといえるでしょう。

特に、飼い主が犬の体をマッサージすることには、身体面+精神面に多くのメリットがあると考えられます。

犬のマッサージ:身体面に及ぼす効果

犬の身体を直接手で触れてマッサージすることには、次のような効果が期待できます。

● 硬くなった筋肉や関節の緩和
● 血行促進
● 健康状態のチェック

マッサージといえば、硬くなった筋肉などをほぐす物理的な効果をイメージすることが多いですよね。

しかし、一見しただけでは見逃しやすい身体の異変――傷やしこり等を手という触覚によって発見することも、犬の健康管理におけるマッサージの重要な役割です。

犬のマッサージ:精神面に及ぼす効果

犬をマッサージすることには、次のような精神面での効果が期待できます。

● 幸せホルモン「セロトニン」の分泌促進
● 飼い主と犬の信頼関係向上

飼い主さんのマッサージによって幸せホルモン「セロトニン」の分泌が促されると、ストレス緩和作用によって精神的に安定し、肉体面の健康向上にも役立つと考えられます。

愛犬のマッサージをする前に確認すること

犬をマッサージする上で重要なのは、あくまでも犬が「気持ち良い」と思えることです。なんらかの原因で犬がマッサージを不快に感じてしまったら、元も子もありません。

愛犬の健康増進に役立つマッサージをしてあげるためにも、次のことに留意しましょう。

愛犬の身体のウィークポイントを確認しておく

どこの部位をマッサージされたら気持ちが良いか、反対にどこの部位は触られたくないかなど、身体の状態は犬によって様々です。まずは愛犬の身体のどこがウィークポイントであるのかを、事前にしっかり確認しておきましょう。

たとえば、全身のどこを飼い主さんに触られても平気な犬もいれば、シッポや足先などを握られること自体を嫌がる犬もいます。

身体に良いからと犬が嫌がる部位を無理にマッサージしたところで、効果は期待できません。犬のマッサージは、あくまでも「気持ち良い」と結びついていることを忘れないでください。

また、老犬などは首や足腰が弱っているせいで、軽く撫でられるのは嬉しくても、コリをほぐすために少し力を入れただけで痛みを感じることも…。

老犬の首回りや足腰はこっていることが多いですが、だからといっていきなりグイグイ揉んでしまうのは禁物です。

こんなときは犬のマッサージはNG!

愛犬をマッサージするときは、気持ち良いと感じているかを表情や仕草から読み解くことが大切です。

体調が悪いときにマッサージするのは言うまでもなくNGですが、次のような場合もマッサージは見合わせたほうがよいでしょう。

● 食事をした直後
● 明らかに空腹のとき
● 妊娠している
● 身体に痛みを感じている

身体に痛みを感じているときのマッサージは基本的にNGですが、部位によっては効果が期待できる場合もあります。

たとえば、足腰に痛みを抱えている犬の顔面や耳などをやさしく揉むことで、リラックスさせてあげられることも。

マッサージしてもよいのか、あるいはしないほうがよいのかは、受けている愛犬の様子を観察しながら判断することが大切です。

犬のマッサージを効果的におこなうための環境

愛犬のマッサージは全身くまなくおこなうこともあれば、気になる部位だけということもあるでしょう。

いずれにしても、マッサージをする前に準備することは同じです。

● 飼い主さんと愛犬の双方がリラックスできる時間帯・場所でおこなう
● 愛犬にケガをさせないよう飼い主さんの爪を切っておく
● 使い捨てカイロやホットタオルなどで手を温めておく

愛犬をマッサージする場所は、リビングの床やソファーの上など、犬と人の双方がリラックスできるところを選んでください。

テレビや音楽など、飼い主さんの気がそれるようなものはなるべく消すことをおすすめします。愛犬の状態に集中できるため、手の感覚からより多くの情報が得られますよ。

また、マッサージの最中に誤って爪で引っかかないよう、飼い主さんは事前に爪を短く切っておきましょう。

いきなり冷たい手を当てると犬を驚かしてしまうことがあるため、冷え性の飼い主さんはカイロやホットタオルを用意しておくと便利です。

お家でできる簡単な犬のマッサージ方法

犬をマッサージするときは、以下のことに注意しながら終始リラックスしておこなうことが大切です。

● 指の腹や手のひらなど、基本は面を意識
● 指先でつまむ、ツボを押す場合は力を入れ過ぎないよう注意
● ゆったりと深呼吸するようなリズムでおこなう
● 犬が嫌がる素振りをみせたら無理強いはしない

それでは、基本となる全身マッサージの手順をご紹介します。

1. まずは体全体を軽いタッチで触っていきましょう。マッサージするというより、体に気になるところがないかをチェックしていきます。犬が一番リラックスできる体勢であれば、伏せ・仰向け・横向きのどれでもかまいません。
2. 全身のチェックを終えたら、次は背中をほぐします。首の後ろから腰にむけて柔らかくマッサージしましょう。気持ちよさそうにしていたら、背骨の両側を軽く指圧していきます。
3. 次に、太ももからお尻まわりをマッサージしていきましょう。足腰が弱っている老犬は、内ももに軽く手をあてながら、もう一方の手で外ももをさすって血行を促していきます。
4. 最後に頭をなでるような感覚で、やさしく首回りと顔の筋肉をほぐしていきましょう。愛犬がウトウトするように、マッサージの最中はゆったりしたトーンで話しかけてくださいね。

いきなり1~4までのすべてを完了させようとしなくて大丈夫です。

初日は背中まで、慣れてきたら太もも…というように、少しずつマッサージに慣らしてあげましょう。

便秘の犬におすすめのマッサージ方法

便秘やカチカチうんちの犬は、腸の蠕動運動(腸の内容物を先へ送る動き)が鈍っています。そんなときはお腹のマッサージをして、うんちを出しやすくしてあげましょう。

1. 体勢は仰向けがベストですが、嫌がる場合は犬を背中側から抱きかかえるようにしてお腹に手を当ててください。
2. おへその両脇1cmのツボを指でやさしく押します。
3. 胸骨の下端とおへそを結んだ線の真ん中にあるツボ(へその指2本分くらい上)をやさしく指圧します。
4. 手のひらの真ん中におへそがくるような位置でお腹に手を当てて、おへそを中心に時計回りでゆっくりと円を描くようにさすっていきます。

便気味の犬は腹痛のせいでお腹を触られることを嫌がることがあります。少しでも愛犬がリラックスできるようにやさしく声をかけながら、無理強いをしない程度にやさしくお腹をマッサージしてあげましょう。

飼い主さんと愛犬の双方がリラックスできるマッサージを目指そう

マッサージやリハビリのプロでもないのに、犬の身体を上手くマッサージできるだろうか…などと不安に思う必要はありません。

犬も人も、心と体は密接につながっています。

愛犬と飼い主さんがマッサージを通して心からリラックスすることは、ときとして薬や治療以上の効果をもたらしてくれるのではないでしょうか。