犬が笑顔で映っている画像や動画は、たくさんありますよね。まったく見ず知らずの犬の笑顔でさえ、みているこちらを幸せな気分にさせてくれます。

ましてや愛犬の幸せそうな笑顔を前にして、思わず微笑まない飼い主さんはいないのではないでしょうか。

しかし、ふと疑問が――。

犬の笑顔は私たち人間が考えている意味と同じなのでしょうか?

このコラムでは、犬の笑顔について深掘りしています。愛犬が飼い主さんに向ける笑顔の意味を知れば、ますます愛犬との生活が楽しくなりますよ!

犬が嬉しいときにみせる表情と行動

私たち人間が考える笑顔の意味は、嬉しい、楽しいといったハッピーな感情に基づくものですよね。

では、犬がみせる笑顔も同じくご機嫌な感情を表しているのでしょうか。そこで、まずは犬が嬉しいときにみせる仕草から探ってみたいと思います。

犬が上機嫌なときにみせる行動

犬が嬉しくて仕方がないときにみせるのは、次のような行動です。

● 後ろ足でピョンピョン飛び跳ねる。
● シッポを高く上げた状態で、ブンブンと左右に大きく振り回す。
● 目を細めて耳を後ろに倒している。
● キャンキャンと高い声で鳴きながら、その場でグルグルと回る。
● 飼い主に飛びついて口の周りや顔をペロペロと舐める。

犬の喜び方には、犬という種としての法則があります。しかし、実際の喜び方には個性のようなものが存在しているからか、一律とはいえません。

他人の目には判断がつかなくても、飼い主さんであれば愛犬がいま喜んでいるのかいないのかが、肌感覚でわかることもありますよね。

犬の笑顔らしき表情から読み取れる感情とは

前項の「犬が上機嫌なときにみせる行動」の中で、笑顔にみえそうな仕草をあえてあげるとすれば、「目を細めて耳を後ろに倒している」ときではないでしょうか。

しかし、私たちが笑顔と捉えている犬の顔は、もっと口角が上がっていて、明らかに「笑っている」と思えるような表情ですよね。

実際のところ、目を細めて耳を後ろに倒している仕草は、犬にしてみれば笑っているつもりはなさそうです。

目を細めることで表している犬の気持ち

犬と犬が対峙したとき、相手をじっとみつめるのは警戒を意味しており、場合によってはケンカの原因になることもあります。

そのため、相手に対して敵対する意思がないことを伝えるために、目を細めることがあるのです。

とはいえ、飼い主になでられているときに目を細めるのは、明らかに気持ちが良いからなのでしょう。

つまり、目を細めている場合は相手に友好的な意思を伝えようとしている、あるいは単純に気持ちが良いかのどちらかと考えられます。

耳を後ろに倒すことで表している犬の気持ち

一方、犬が耳を後ろに倒すことにも複数の意味があると考えられています。

● 恐怖や不安を感じている
● 相手に対して降参の意思を示している
● 相手に対して攻撃の意思はないことを示している
● 撫でられることを予想している

どちらかといえばネガティブ寄りな意味が多いですが、例外ともいえるのは「撫でられることを予想している」ときに耳を後ろに倒した場合です。

これは、相手に撫でられることを受け入れているからこその仕草といえるでしょう。

つまり、「目を細めて耳を後ろに倒している」という仕草を笑顔と判断できるのは、飼い主さんに優しく撫でられてリラックスしているときだけではないでしょうか。

犬の口元が笑っているようにみえるときの感情とは

犬が笑っているようにみえるとき、その多くは口が開いています。犬の口はパカっと開いて口角が上がってみえるからこそ、笑顔らしさが際立ちますよね。

犬の口が自然に開いているとしたら、その状態は顔や口元の緊張が緩んでいることを意味しています。要するに、緊張していないリラックスした状態です。

となると、犬の口元が笑っているような形で開いているときは相手に対して警戒心を抱いておらず、かなり友好的であると判断できるのではないでしょうか。

この表情を笑顔と受け取る科学的な根拠はないものの、犬と暮らす多くの飼い主さんが「笑っている」と感じているのですから、限りなく笑顔に近いものであることは間違いなさそうです。

犬の笑顔は飼い主さんのマネをしている可能性あり

犬は飼い主さんの行動や感情にとても敏感な生き物です。何をしたときに飼い主さんが喜んでくれたのか、どんな仕草をしたときに飼い主さんから褒められたのか――。

こういったことを、私たちが想像している以上に犬達は理解しています。

そんな犬達は飼い主さんが喜んでいるときの表情を見逃しません。愛犬と楽しく遊んでいるときの飼い主さんは、ほぼ必ずといってよいほど笑っているはずです。

その表情――笑顔を犬がマネだとしたら、飼い主さんはどのような反応をするでしょうか。

愛犬が笑顔をみせたと感じた飼い主さんは、おそらく嬉しくなりますよね。すると、犬は薄く口を開けて目を細めてみたら、飼い主さんが大喜びしてくれた、と学習することになるでしょう。

このように、犬の笑顔のきっかけは、大好きな飼い主さんのマネをしたことなのかもしれません。

犬は人間との共生を選んだときから飼い主の感情に敏感

そもそも、なぜ犬は飼い主さんの行動や感情にとても敏感なのでしょうか。それは、人間との共生をより円滑に進めていくことを目的に、犬が獲得した能力と考えられています。

かつてオオカミだった時代、食べ物は自分たちで探すことが当たり前でした。

しかし人と暮らすことを選び、2万年から4万年ほど前に犬へと変化したグループにとって、食べ物は人間から与えられるものとなったのです。

つまり、獲物を狩るかわりにどうすれば人が喜ぶのかを察知できなければ、食べ物を得ることが困難になったわけですね。

犬が笑顔を作れるのはオオカミには少ない表情筋があるから

犬が笑顔(のような表情)を作れるようになったのは、まさしくオオカミから犬へと進化したことが関係しています。

犬とオオカミを解剖学的な見地から考察すると、面白いことが判明しました。犬とオオカミでは表情筋における筋肉繊維「速収縮筋線維」と「緩徐収縮筋線維」の割合が違ったのです。

素早く動かせるほうの速収縮筋線維の割合が犬は66~95%であるのに対し、オオカミには25%程度しかありませんでした。

要するに、犬のほうが表情筋を素早く動かすことができるからこそ、人間の表情筋と似た動きができるのです。

これはまさしく、犬が人間に可愛がられるためにとった戦略であり、進化と表現してもいいのではないでしょうか。

愛犬が笑顔でいられる日々を守りたい

「犬は実際には笑っていない、あれは単に口を開けている顔が笑っているようにみえているだけだ」「いいや、犬は絶対に嬉しいから笑っている」等々、犬の笑顔については様々な意見があります。

犬が警戒しているときの表情は、人間に危害を加える可能性があることで、かなり研究が進められていますよね。

一方で、笑顔(のようにみえる表情)はリラックスしている場合が多く、人間への脅威が少ないと判断された結果、あまり解明されていないのが実情です。

とはいえ、私たち犬と暮らすものにとって、笑顔を浮かべているときの愛犬が嬉しそうにしていることを事実として知っています。

犬の笑顔が本当の意味で笑顔であろうとなかろうと、大切なのは愛犬が楽しそうにみえる環境を飼い主さんが守り続けることではないでしょうか。