飼い主:大岡 紱子
愛 犬:マロン



幼い頃は犬が嫌いだった。昭和50年代。
野良犬は珍しくなかったし、夜になると放し飼いにされる大型犬が
怖くて出歩けなかった。
そして、近所のスピッツに噛みつかれて振り回されたことが犬嫌いの決定打になり、小犬や子猫ですら怖くて近寄ることができなくなってしまった。
そんな犬嫌いは、行き場のない捨て犬を引き取って飼い始めたことで一変したが、かわいがっていたその犬は、数年後のある日、
散歩中にはぐれてそれっきり帰ってこなかった。

あらゆる手を尽くして探し回ったけど見つからず、
保健所に捕獲されることもなく、どうしているのかわからず終いと
なってしまったことは、家族みんなにとって悲しすぎる経験だった。
小さい頃に飼っていた犬の死が相当辛かったらしく、
もう二度と同じ思いはしたくないと言いながらも捨て犬を放って
おけなかった母にとっては、余計に辛い経験になったと思う。
それから長い間、誰ひとり犬を飼いたいと言い出すことはなかった。

母から「犬を飼いたい」と聞いたのは、ずいぶん後になってからだ。
「母の責任感」へつづく

(2024.5)